賃金について
賃金とは一般でいうお給料やボーナスのことです。 労働基準法では「名称の如何 ( いかん ) を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義しています。(11条) つまり、パート主婦が労働力を提供する代わりにその対価として受け取るお金のことです。退職金は一般的には含まれないとされますが、就業規則や労働協約に支払うことが明記されている場合は賃金に含まれると考えられています。
賃金などに関して、多くのパート主婦は何年、何十年と働こうが昇給もボーナスも退職金もほとんどないのが通常です。法律上はパートタイマー専用の就業規則にそれぞれに関する規定が定められていなかったり、採用時の雇用契約で明確になっていない限りは、事業主は支払義務は生じません。しかし、学歴も勤続年数も仕事内容も同じ正社員とパートで賃金に大きな差があり、ボーナスや退職金の有無でさらにその差が広がるようなことがあれば、パート主婦の不満が爆発してもなんら不思議ではありません。現にこういった事例が数多く存在します。
ですから、企業にとって大きな戦力であるパート主婦のモチベーション維持のためにも、正社員の賃金規定に準ずる形で昇給やボーナス、退職金に変わる慰労金などの規定を創設する必要があります。臨時的に雇われたパートなどの場合は労働基準法や最低賃金法に抵触しない限り、正社員と異なった賃金の条件を定めることを認めた判例もありますが、正社員と賃金体系が異なる場合はやはり昇給、各種手当、退職金の有無などに関して就業規則などで明確にすべきであると考えられています。
また、常用パートや臨時パートの賃金について、会社に労働組合がある場合、労働組合法の第17条に定められている一般的拘束力の問題が関係してきます。第17条では、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。」としており、実態から判断して、パート主婦が正社員と同種の仕事についているとされ、数的条件もクリアしている場合は、事業主が正社員で組織する労働組合と結んだ労働協約の内容がパート主婦にも適用されることになります。これには賃金や昇給、ボーナス、退職金に関する協定も当然含まれます。ですから、会社に労働組合があって、従事する仕事の内容が正社員と同じだったり、労働契約の更新回数が多くて正社員との働き方の違いがはっきりしない場合は、この一般的拘束力の問題を考える必要がでてきます。
最低賃金とは
最低賃金法では賃金が安くて生活ができない労働者がでることを防ぐため、最低水準の賃金が定められています。とはいいつつも、現実には生活保護水準を下回る賃金設定がなされており、最低賃金の大幅な引き上げが必要であると認識されています。最低賃金には産業別最低賃金と地域別最低賃金があり、毎年改定されます。
事業主は労働者であるパート主婦に対して最低賃金以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金の概要を常に会社内の誰もが見やすい場所に掲示するなどしてパート主婦に知らせておかなければなりません。
例として大阪の産業別最低賃金と代表的な地域別最低賃金を以下にあげておきます。なお、割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは最低賃金に含まれません。他の産業別最低賃金、地域別最低賃金については厚生労働省−最低賃金ホームページをご覧ください。
(06年11月01日現在)
大阪の産業別最低賃金
産業 |
時給(円) |
塗料製造業 |
830円 |
鉄鋼業 |
811円 |
非鉄金属、同合金圧延業、電線・ケーブル製造業 |
777円 |
一般機械器具製造業、暖房装置・配管工事用附属品、
金属線製品製造業、船舶製造・修理業,舶用機関製造業 |
802円 |
電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、
電子部品・デバイス製造業 |
779円 |
自動車・同附属品製造業 |
796円 |
各種商品小売業 |
751円 |
自動車小売業 |
788円 |
(07年11月01日現在)
代表的な
地域別最低賃金
都道府県 |
金額 |
北海道 |
654円 |
宮城 |
639円 |
埼玉 |
702円 |
神奈川 |
736円 |
東京 |
739円 |
新潟 |
657円 |
長野 |
669円 |
静岡 |
697円 |
愛知 |
714円 |
大阪 |
731円 |
広島 |
669円 |
愛媛 |
623円 |
福岡 |
663円 |
沖縄 |
618円 |
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未払賃金の立替払い
勤めていた会社の経営が行き詰まり、事業主がパート主婦に賃金が支払えなくなったとき、一定の条件に当てはまれば退職したパート主婦に対して政府が賃金の立替払いをしてくれます。具体的には労働者災害補償保険法 ( 労災法 ) の適用事業を1年以上行っていた事業主が以下の倒産事由に該当した場合に、パート主婦の請求にもとづいて政府が賃金を支払ってくれます。
@破産手続きの開始の決定があった。
A特別清算開始の命令を受けた。
B整理開始の命令を受けた。
C民事再生手続き開始の決定があった。
D更生手続き開始の決定があった。
E事業主が事業活動に著しい支障を生じたことによって労働者に賃金を支払うことができない状態として厚生労働省令で定める状態になった。 ( 中小事業主など一定の範囲のみ
) |
賃金の立替払いは退職したパート主婦に対して行われるので、退職の時期が限定されています。賃金の立替払いの対象となる退職の時期は、@〜Dまでの倒産事由に該当する場合は破産申立てなどの最初の申立てがあった日の6カ月前から2年間となっています。Eに該当する場合はその認定のもととなった最初の申請があった日の6カ月前から2年間です。
未払賃金の金額
原則的には未払額の80%が保障されますが、下記の表のように年齢によって異なる上限額が定められています。下限額も定められていて、未払賃金の総額が2万円に満たないときは立替払いは行われません。
退職日の
年齢 |
未払賃金の上限額 |
立替払いの上限額 |
30歳未満 |
110万円 |
88万円 |
30歳以上
45歳未満 |
220万円 |
176万円 |
45歳以上 |
370万円 |
296万円 |
賃金の遅延利息
事業主が退職したパート主婦に支払うべき賃金の全部または一部を退職の日もしくは退職後の支払期日までに支払わなかったときは退職日の翌日からその支払日までの日数に応じて年利率14.6%の利息が発生します。事業主はこの利息分を賃金とともにパート主婦に支払わなければなりません。
使用者は、パート主婦が非常時の費用にあてるために請求したときは、賃金の支払期日が来ていなくても、すでに労働した分の賃金に関しては支払わなければなりません。非常時とはパート主婦本人、またはパート主婦の収入によって生計を維持する者が次のような状態になった場合をいいます。
@出産したとき
A病気になったとき
B災害にあったとき
C結婚したとき
D死亡したとき
Eやむをえない事情で1週間以上帰郷することになったとき |
労働基準法では、使用者に原因のある理由で休業するに至った場合は、平均賃金の60%以上を休業手当としてパート主婦に支払わなければならないと定めています。使用者に原因のある理由とは次のようなことをいいます。
@製品の生産量調整のためにパート主婦に一時帰休をさせた。
A親工場が経営難に陥り、下請工場がその影響で休業せざるをえなくなった。
B即時解雇の通知を受けてパート主婦が翌日から出勤しなくなったが、解雇通知が解雇予告として有効と判断され、出勤しなかった期間が休業期間と認められた。
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労働基準法ではパート主婦の生活の安定を図るために、会社がパート主婦に賃金を支払う上での5つの約束事を提示しています。
- 通貨で払わなければならない
会社で製造している商品などのモノで払うのではなく、日本では円 ( 紙幣または硬貨 ) で払う必要がありますが、一部例外もあります。
例外…労働協約で通勤定期券などを現物支給する旨を定めた場合
- 直接払わなければならない
パート主婦本人に渡さなければなりません。なお、パート主婦本人の自由な意思にもとづく同意があれば ( むりやり同意させてはダメ ) 、本人名義の銀行口座へ振り込むことは可能です。ただし、給料日に払い出し可能な状態にしておかなくてはなりません。
- 全額払わなければならない
働いた分のお給料をすべて払わなければならず、ピンハネを禁止しています。ただし、以下の例外に関してはお給料から控除できます。
例外A…税金、厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料など
例外B…過半数代表者との書面による協定 ( 労使協定 ) にもとづくもの
- 毎月払わなければならない
少なくとも毎月1回以上払わなければならず、長期間のタダ働きを禁止しています。
例外…ボーナスなど1ヶ月を超える期間ごとに払うもの
- 一定の期日に払わなければならない
20日や末日などのように給料日をはっきりさせなくてはなりません。
パート労働法にもとづくパート指針では「事業主は短時間労働者の賃金、賞与および退職金については、その就業の実態、通常の労働者との均衡を考慮して定めるように努めるものとする。」と定められています。しかし、努力義務のため強制力がないので、現状はパート主婦に関しては昇給がなく、ボーナスは金一封、退職金なしというのが一般的で、正社員とパート主婦の年間所得に大きな差がでています。
中小企業退職金共済制度
退職金の負担が大きい中小企業に対して中小企業退職金共済制度という独立行政法人の勤労者退職金共済機構が運営している制度があります。掛け金の一部は国の助成があるので割安になっており、税法上の優遇措置もあります。パート用の特例もあるので、「長年がんばってくれたパートさんに退職金を払いたいけど余裕がない」と嘆いておられる心やさしい事業主さんは加入を検討してみられてはいかがでしょうか。
→中小企業退職金共済事業本部
正社員との賃金格差世間一般的に賃金に関しては正社員は月給制で、パートは時給制というのが大半を占めています。この賃金格差については問題があることはいうまでもありませんが、パート指針でも「均衡を考慮して定めるように努める」義務にとどめているため、現状はなかなか改善されません。
しかし、女性正社員と同じ仕事をする擬似パートだった主婦の賃金に格差があったことが争点となった裁判では、パート主婦には同一継続年数の女性正社員の8割以上の賃金を支払うか、もしくは一定年月がたった時点で正社員登用への途(みち)を用意するべきとの判断が下されました。(有名な丸子警報器事件)
これは均等待遇の理念から来る同一価値労働同一賃金の考えによるものとされています。この裁判は未婚の正社員女性とパート主婦の賃金について争われましたが、別の裁判で既婚者であるということで査定を低くし、昇格させなかったという既婚者差別が不法行為にあたると認めた判例もあります。
男女の賃金格差
労働基準法の第4条では男女の同一賃金の原則が定められています。これは女性であることを理由として賃金において差別的取扱いをすることを禁止したもので、これに違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。表向きにはこの原則に違反していなくても、現実には男性は正社員、女性はパートなどと区分けする性別役割分業の慣習から男女で賃金格差が生まれやすくなっています。男女で雇用形態を分けることで結果的に賃金格差が起こっているのです。
正社員であれば基本給に加えて、家族手当、住宅手当、通勤手当、職能給、歩合給、残業代 ( 時間外手当 ) がもらえ、ボーナスも出るとなるとその額は大きくなります。一方、パート主婦は基本的に時間給で残業をしても割増賃金は支払われず、ボーナスはないのが普通、あっても金一封といったところでしょう。これらは賃金そのものの差にとどまらず、将来受け取る年金額の差にも影響します。賃金の男女差別は働き盛りの年代も、退職してから死ぬまでの老後にも多大な影響を及ぼすのです。
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