一般的に使われる有給休暇 ( 有休や年休 ) のことを労働基準法では年次有給休暇といい、労働者に賃金を保障しながら休養を取れるようにすることで、労働者の肉体的・精神的疲労の回復と労働力の維持倍増を図るための権利として定めています。休憩や休日と異なるのは労働者の請求によって与えられるものであるということです。
有給休暇をとるための必要条件
@採用日から6ヵ月間継続勤務していること ( 在籍していればよい )
A全労働日 ( 会社が労働日と指定したすべての日 ) の80%以上出勤したこと
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上記のように条件はあくまで労働日数に関するものなので、1日の労働時間は関係ありません。1日3時間働こうが6時間働こうが有給休暇の取得条件には全く無関係で、すべて出勤日とみなされます。ただし、次項の表にあるように、1週間の労働時間数によって有給休暇の日数に違いがでてきます。仕事中のケガや仕事中の動作が原因で発生した病気・ケガによる休業期間、法律で定められている育児休業や介護休業をした期間、法律で定められている産前産後の休業期間、年次有給休暇をとった日は出勤したものとみなされます。また、会社の休業や労働組合のストによる不就労などは労働義務がないものと解釈され、労働日から除いて計算されます。
有給休暇の日数
有給休暇の日数には2種類あり、以下のように1週間の労働日数と労働時間で区別されています。労働契約の日数が少なく、更新を繰り返している場合は実態に基づいて判断しなければなりません。また、ある特定の年に全労働日の80%以上出勤できなかった場合は、その翌年の有給休暇はゼロになります。翌年に80%以上出勤できた場合は翌々年の有給休暇は復活し、入社からの継続勤務期間の年数分が与えられなければなりません。なお、有給休暇の消滅については、有給休暇が発生した年だけでなく、翌年度においてもその請求権を失いません。
( 時効は2年 )
新しい会社に勤め始めて6ヶ月が経つと、有給休暇が取得可能になります。パート主婦の有給休暇は、その労働日数と労働時間によって付与日数が異なります。週所定労働日数 ( 1週間の労働日数 ) が5日以上か、もしくは週所定労働時間
( 1週間の総労働時間 ) が30時間以上の場合は、正社員と同じ日数の有給休暇を取得することができます。
( 正社員並みに働いているパート主婦→@の表 )
@以外の場合、つまり、週所定労働日数 ( 1週間の労働日数 ) が4日以下で週所定労働時間 ( 1週間の総労働時間 ) が30時間未満の場合は、パートタイマー向けの付与日数が与えられることになります。
( 本来のパート主婦→Aの表 )
@ 週所定労働日数が5日以上
または週所定労働時間が30時間以上の場合
継続勤務
期間 |
6ヵ月 |
1年
6ヵ月 |
2年
6ヵ月 |
3年
6ヵ月 |
4年
6ヵ月 |
5年
6ヵ月 |
6年
6ヵ月
以上 |
有給の
日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
A @以外の場合
週所定
労働日数
(1年間の
所定労働日数) |
継続
勤務
6ヵ月 |
1年
6ヵ月 |
2年
6ヵ月 |
3年
6ヵ月 |
4年
6ヵ月 |
5年
6ヵ月 |
6年
6ヵ月
以上 |
4日
(169〜216日) |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
3日
(121〜168日) |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
2日
(73〜120日) |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
1日
(48〜72日) |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |
労働者の時季指定権
使用者はパート主婦の請求する時季に与えなければなりません。つまり、パート主婦が「この日に有休を使いたい」と指定できます。時季とは必ずしも具体的な日時を指す言葉ではありませんが、有給休暇をとろうとするパート主婦は仕事と家事などに追われて毎日を余裕なく過ごしていますから、実際には日時を特定することが一般的でしょう。裁判所の判例では年次有給休暇の請求権の性質について説明したものの中に、時季の指定について次のように述べたものがあります。「休暇の時季指定の効果は、使用者の適法の時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものである。」
( 最高裁・昭和48年3月2日判決 ) ただし、代わりの労働者を確保するための時間的余裕のない時季の指定は無効となる場合もあります。
使用者の時季変更権
使用者はパート主婦の指定した日が事業の正常な運営を妨げる恐れがあると判断した場合は他の時季に変更することができます。ただし、この判断については個別的、具体的、客観的に判断して妥当とされるものでなければなりません。これは、事業の規模、内容、パート主婦の仕事内容、仕事の繁閑、代わりのパート確保の難易度などから判断するべきであるとされています。
計画的な有給休暇の付与 ( 計画年休 )
計画年休とは、有給休暇をパート主婦に与える時季についての労使協定を結んで、その内容にのっとって計画的に有給休暇を消化できるようにすることをいいます。労使協定は36協定の場合と同じで労働者の過半数が加入する労働組合か、もしくは労働者の過半数代表者と使用者が結びます。また、労使委員会がある場合には委員の5分の4以上の多数決による議決によって協定内容を決定することもできます。協定が結ばれた場合はこの内容に反対した労働者も対象となります。ただし与えられた有給休暇すべてではなく、5日を超える分が計画年休の対象となり、5日分は個人の都合で消化する日を決定できます。
半日単位の有給休暇
労働基準法で定められている年次有給休暇は原則として1日単位で取得することになっています。しかし、通達によって半日単位の取得であっても即法律違反とはならないこととされました。
有給休暇中の賃金
原則では平均賃金、または所定労働時間働いた分の賃金を払うことを就業規則などで定める必要があります。例外として、健康保険の保険料算定に使用される標準報酬日額を利用することを労使協定で定めることも可能です。使用者が有給休暇中の賃金を支払わない場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。また、労働者がこの件に関して裁判を起こした場合、裁判所は事業主に対して未払い金 ( 賃金 ) に加えて、同額の付加金の支払を命じることができます。
有給休暇の買上げ (買取り )
使用者が有給休暇の買上げをあらかじめ予約したり、予約することで日数を減らしたり与えなかったりすることは、パート主婦の既得権を侵害することになるので違法です。ただし、法定付与日数
( 上記の表に示されている日数 ) を超える分については買い上げてもかまいません。また、時効 ( 2年 )で請求権が消滅した残存休暇についても買上げをすることは違法になりません。
有給休暇の振替
パート主婦が 過去に欠勤、早退、遅刻をした日を後日有給休暇に振り替えることは、労働者に賃金を保障しながら休養を取れるようにすることで、労働者の肉体的・精神的疲労の回復と労働力の維持倍増を図るための権利として保障するという目的から外れてしまいますが、パート主婦がそれを希望して、使用者が認める場合には必ずしも違法にはならないとされています。
退職直前の有給休暇の取得
パート主婦が退職願を提出し、残る出勤日の全部または一部に有給休暇を使いたいと申し出たとき、その権利が確立している場合には使用者は拒否することができません。事業の正常な運営を妨げる恐れがある場合で、パート主婦の退職日がせまっていて他の日に時季を変更できないときであっても、有給休暇取得の権利を剥奪することはできません。
不利益な取り扱いの禁止
パート主婦が有給休暇をとったことが原因で精勤手当 ( 皆勤手当 ) をもらえなかったり ( 有給休暇は労働日とみなされるので出勤扱いとなります )、賃金やボーナスが減額されたりすることは違法です。
労働基準法では労働者の疲労回復、能率低下の防止、労働事故の防止の観点から休憩制度を設けています。労働基準法の休憩に関する規定では、「労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働者に与えなければならない」としています。労働時間が6時間以内なら休憩を与えなくても違反にはなりません。休憩時間を有給にするか無給にするかについては定めていないので、労使交渉で決めることになります。
休憩時間を与えるときの注意点
休憩に関しては以下のようなことも定められています。
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労働時間の途中に与えなければならない
労働時間の前後に与えることは認められません。長時間労働を避けるためです。
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労働者全員に ( 正社員とパートの区別なく ) 一斉に与えなければならない
ただし、交代で休憩時間をとることなどを決めた労使協定があるとき ( この場合は届出不要であり、正社員とパートを区別しても差し支えありません )
や以下の業種については適用されません。
例外…一斉に与えると業務に大きな支障がでる恐れがあると考えられる業種
A…運輸交通業(電車、船、飛行機などの乗務員、貨物運送など)
B…商業(販売業、配給業、賃貸業、理容業など)
C…金融・広告業(金融保険業、広告業など)
D…映画演劇業(映画の製作、演劇業など)
E…通信業(郵便業、電話事業など)
F…保健衛生業(医師、看護師など)
G…接客娯楽業(旅館、飲食店、娯楽場など)
H…官公署の事業
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労働者に自由に利用させなければならない
使用者からの指揮命令から一時的に解き放たれる時間なので、パート主婦を自由にしなければなりません。しかし、「休憩時間の利用について事業場(会社)の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を損なわない限りさしつかえない」
( 昭和22年9月13日基発17号 ) とされているので、職場の秩序維持のために最低限の制限を加えることはやむをえないと考えられています。
休日とは1日24時間の休みのことで、労働者が使用者の指揮命令から完全に開放される日をいいます。原則的には1日の休日とは午前0時から午後12時となります。休日は最低週に1度、または4週間に4日以上とらなければなりません。週に1度とることを週休制と呼び、この場合は必ずしも日曜日や祝日を休日にしなければならないわけではありませんが、就業規則や労働協約で特定することが望ましいとされています。ただし、災害などによる臨時の必要がある場合や休日労働に関する36協定がある場合は1週間に1日の休日を確保しなくてもよいことになっています。4週間に4日以上とる場合
( 変形週休制 ) もその開始日を就業規則などに明記しておかなくてはなりません。
36協定とは事業主とパート主婦が加入する労働組合 ( 正社員とパートが混合加入する労働組合でもかまいません ) 、またはパート主婦の過半数代表者との間の書面による協定で、これを労働基準監督署へ届け出なければなりません。
休日の労働
就業規則で日曜日と祝日を休日とした場合、日曜日は法定休日ですが、祝日は法定外休日となります。法定外休日なので事業主はこの祝日に関して36協定がなくても、就業規則に法定外休日労働の規定があれば労働者に労働させることができ、割増賃金も発生しません。
( 法定休日に労働させる場合は36協定が必要となります。→36協定 ) 週休2日制も法定休日と法定外休日からなるので、そのうち1日働いたとしても法定外休日労働には割増賃金は発生しません。法定休日に労働をする場合、その労働日に変更された休日の代わりに、別の労働日を休日に変更することがあります。これには、休日の振り替えと代休の2つの方法があります。
休日の振り替えとは
休日の振り替えとは休日である日を前もって労働日に振り替えておくと同時に、本来労働日である日を休日にしておく方法です。この場合はもともと休日である日の労働に関しては休日労働の割増賃金 ( 35%以上 ) が発生しません。この方法を行う場合はあらかじめ就業規則などに休日の振り替えに関する規定があることと休日の振り替えを行っても4週間で4日以上の休日が確保されていることが必要です。ただし、振り替えが原因で1週間の労働時間が40時間を超えた場合は時間外労働に対する割増賃金 ( 25%以上 ) が発生します。
代休とは
代休とはまず休日労働が行われ、その後に代償として別の労働日を休日にすることをいいます。この場合は休日労働の割増賃金 ( 35%以上 ) が発生します。休日労働に深夜労働が加わると深夜労働の分はさらに高い割増賃金 ( 60%以上 ) が発生します。(参考→残業代と割増賃金をご覧ください) 割増賃金を支払えば、必ずしも別の労働日を休日にする必要はありません。
労働基準法では、使用者に原因のある理由で休業するに至った場合は、平均賃金の60%以上を休業手当としてパート主婦に支払わなければならないと定めています。使用者に原因のある理由とは次のようなことをいいます。
@製品の生産量調整のためにパート主婦に一時帰休をさせた。
A親工場が経営難に陥り、下請工場がその影響で休業せざるをえなくなった。
B即時解雇の通知を受けてパート主婦が翌日から出勤しなくなったが、解雇通知が解雇予告として有効と判断され、出勤しなかった期間が休業期間と認められた。
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