退職とは
退職とは労働者が会社をやめることで、主に契約期間の定めがあるパート ( 季節パートなど ) の場合など、やむをえない場合を除いて契約期間中に退職することはできません。期間の定めのないパート
( 常用パート ) の場合はいつでも退職可能です。退職の申し出から2週間経てば退職でき、正当な理由はなくてもかまいません。 ( 民法627条
) 退職を大きく分類すると次のようになります。
- 任意退職 ( 自己都合退職 )
口頭または文書(退職願、退職届、辞職願など)によってパート主婦が辞職の意思表示をし、労働契約の解除を会社に申し出ることで成立します。退職理由は一般的に自己都合とされることが多いですが、具体的には結婚、妊娠、出産、育児、介護、転職、病気、独立などがあげられます。
- 合意退職
これは任意退職に入りますが、任意退職の中でも特に労使双方の合意による退職のことをいいます。
- 一方的退職
会社側からの一方的な意思表示によって行われる退職のことで、具体的には倒産や解雇によるものをいいます。
- 自然退職
あらかじめ、労働契約書や就業規則などで定められた契約期間や休職期間の満了、定年、死亡によって自動的に退職することをいいます。
退職の手続き
退職の手続きには以下のようなものがあります。大事な書類をたくさん受け取るので、足りないものがないかしっかりと確認しましょう。
- 退職時証明
雇用されていた会社での雇用期間、業務の種類、社内での地位、賃金、退職 ( 解雇 ) の理由についての証明書を請求することができます。5つの証明のうち記載されたくないものについては、請求しない旨を事業主にはっきりと伝えましょう。パート主婦が請求していない事項が証明書に記入されたなどの違反行為には罰則が適用されます。
→30万円以下の罰金 また、証明書に秘密の記号を使うなどしてブラックリストの交換をし、パート主婦の新たな就業を妨げる行為も禁止されています。→6ヵ月以下または30万円以下の罰金
また、解雇 ( 雇止め ) されたパート主婦に対して、解雇予告された日から退職するまでの間にその理由を書面で明らかにするよう求めることができます。この書面を解雇理由証明書といいます。
- 雇用保険被保険者証
ハローワークで求職の申込みをするときや失業等給付の受給手続きをするとき、再就職したときに必要になるのでなくさないようにしましょう。
- 雇用保険被保険者離職票と退職理由
雇用保険 ( 失業保険 ) の失業等給付を受ける場合は、会社に離職票を交付してもらいます。 ( 退職者が満59歳以上の場合は必ず離職票を交付しなければなりません。
) 雇用保険の一般被保険者に対する求職者給付の基本手当の給付日数は、退職時の年齢、雇用保険の被保険者期間、退職の理由によって90日〜360日の間で決定されます。特に退職の理由に関しては、会社の倒産や解雇によって離職を余儀なくされた退職者に対してより手厚い給付日数となっており、これによって給付の合計金額が大きく変わってきます。→雇用保険
- 健康保険証の返還
健康保険に加入していた場合は、会社から支給されていた健康保険の保険証を被扶養者分 ( 家族の分 ) も含めてすべて会社へ返還しなければなりません。
退職後は一般的に各自治体が運営する国民健康保険に加入するか、夫の健康保険に被扶養者として入ることになりますが、退職前に2ヵ月以上健康保険に加入していた場合は、希望すれば健康保険の資格を2年間延長することができます。これは健康保険任意継続被保険者制度といい、退職日の翌日から20日以内に住所地を管轄する社会保険事務所などで手続きを行うことができます。ただし、任意継続被保険者は保険料を全額負担しなければならないので、それまでの給料明細から控除されていた健康保険料の2倍の額を支払うことになります。
- 年金手帳
在職中に会社に預けていた年金手帳を会社から返還してもらいます。新たに別の会社へ就職したときはその会社へ提出しますので、大事に保管しておきましょう。
- 厚生年金基金加入員証
厚生年金基金に加入していた場合に返却され、将来厚生年金に上乗せするかたちで厚生年金基金から支給される年金を受け取ることができますので、なくさないように注意しましょう。
- 源泉徴収票
年間の賃金額、社会保険料の金額、源泉所得税の金額が記入されています。再就職しない場合は確定申告のときに必要になり、再就職した場合は年末調整で必要になりますので、なくさないようにしましょう。
- 社会保険の保険料の精算
健康保険と厚生年金保険に加入していた場合、被保険者資格の喪失日は退職日の翌日なので、多くの場合は会社を辞めた月は保険料はかかりません。しかし、月末でやめた場合に限り、その月の保険料を支払うことになります。
- 賃金などの受取
賃金など会社から支払を受けるべき金品がある場合は、会社に請求すると1週間以内に回収することができます。労働基準法では労働者から請求があったときは、使用者は賃金の支払日を待たずに請求のあった日から7日以内に賃金のほか、積立金、保証金、貯蓄金など労働者の権利に関する金品すべてを労働者に返還しなければならないと定めています。( 23条 ) 返還を不当に延長することはパート主婦の足止めになったり、パート主婦の生活に直接影響を与える恐れがあるため、使用者は速やかに返還しなければならず、違反した場合は罰則が適用されます。 →30万円以下の罰金
また、会社の倒産などで賃金が支払われない状態で一定の条件に当てはまる場合は、未払賃金の立替払いを政府が行ってくれます。→未払賃金
- 退職金
会社の就業規則に退職金に関する規定がある場合、または退職金に関する労働協約がある場合はその内容にしたがって使用者は退職金を支払うことになります。懲戒解雇の場合は退職金を支払わない旨の規定が就業規則にある場合でも、退職金を全く支払わないほどの重大な規律違反に限られており、多くの場合は会社に支払義務が生じます。支払時期に関しては賃金などとは違い、パート主婦が使用者にその支払を請求しても就業規則などに定められた支払時期が来ていない場合はすぐに支払う必要はないとされています。
定年の男女差別禁止
定年について、男女雇用機会均等法では性別による差別をすることを禁止しています。
違法
A…定年の定めについて、男女で異なる取扱いをする。
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A…異なる取扱いをしている例
定年年齢の引上げを行うに際して、厚生年金の支給開始年齢に合わせて男女で異なる定年を定める。
退職勧奨の男女差別禁止
退職勧奨とは事業主などが雇用する労働者に対して退職を促すことをいいますが、男女雇用機会均等法では、退職勧奨について、性別による差別をすることを禁止しています。
違法
A…退職の勧奨に当たって、その対象を男女のいずれかのみとする。
B…退職の勧奨に当たっての条件を男女で異なるものとする。
C…退職の勧奨に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをする。
D…退職の勧奨に当たって、男女のいずれかを優先する。
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A…男女のいずれかのみとしている例
女性に対してのみ経営の合理化のための早期退職制度の利用を働きかける。
B…異なるものとしている例
@ 女性に対してのみ子を有していることを理由として退職勧奨をする。
A 経営の合理化に際して既婚女性に対してのみ退職勧奨をする。
C…異なる取扱いをしている例
経営合理化に伴い退職勧奨を実施するに当たり、人事考課を考慮する場合において、男性については最低の評価がなされている者のみ退職勧奨の対象とするが、女性については特に優秀という評価がなされている者以外を退職勧奨の対象とする。
D…優先している例
@ 男性よりも優先して女性に対して退職勧奨をする。
A 退職勧奨の対象とする年齢を女性については45歳、男性については50歳とするなど男女で差を設ける。
解雇とは
解雇とは使用者が口頭または文書 ( 解雇通知 ) により労働者に辞職を強制することで、使用者の一方的な行為をいいます。解雇の理由には普通解雇、懲戒解雇、契約の更新拒否、採用内定の取り消し、休職期間満了に伴う解雇、定年解雇、整理解雇がありますが、04年1月の労働基準法改正で解雇権濫用について「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
( 18条2項 ) と定められたので、雇用主の方は権利の濫用とならないよう注意が必要です。
解雇の場合も退職の手続きと同じ手続きが必要になりますので、上記の「退職の手続き」をあわせてご覧ください。
- 普通解雇
会社の就業規則などでパート主婦の職務の怠慢や会社の信用・名誉を傷つける行為などがあった場合は解雇する旨の規定をしていて、これに該当したときは普通解雇となります。なかでも諭旨解雇は退職を勧告して退職させることをいい、退職願を提出しなければ懲戒解雇になる可能性がある、厳しいものとなっています。
- 懲戒解雇
普通解雇と同様、就業規則で無断欠勤○日以上や暴行・脅迫・金品窃取 ( きんぴんせっしゅ )、会社に損害を与える行為などがあった場合には解雇する旨の規定をしていて、これに該当し、かつ、その者が改悛せず、今後も同じようなことが起こって会社にさらなる損害を与えることが明白な場合などは懲戒解雇となります。退職金がある場合は、一般的に全部または一部が不支給となります。
- 契約の更新拒否(雇止め)
パートによく見られることですが、3ヵ月、6ヵ月、1年などの短期契約の更新を何度か繰り返している場合は、期間の定めのない常用パートになったと解釈されるので、更新を拒否すること ( 雇止め ) は解雇通知があったとみなされます。
- 採用内定の取り消し
1度採用の内定通知を出しておいて後でその取り消しを行うことは労働契約の成立後、使用者が解約の申し入れをした ( =解雇した ) とみなされます。
- 休職期間満了に伴う解雇
会社の就業規則で休職期間が満了になると解雇する旨の規定があり、労働者がそれに該当した場合は解雇されます。
- 定年解雇 ( =定年退職 )
会社の就業規則で定年に達した者を解雇する旨の規定があり、パート主婦がそれに該当した場合は解雇されます。定年に達したことが解雇理由となるのか、退職理由となるのかは一般的に就業規則の規定内容によります。解雇理由として定めている場合は解雇としての法律上の手続きが必要になります。
- 整理解雇
会社の業績悪化を理由として複数の労働者をまとめて解雇することをいいます。整理解雇をする場合は「整理解雇の4要件」を満たす必要があるとされてきましたが、近年、この4要件については、「整理解雇が合理的であるかどうかの重要な判断要素となりうるが、4要件すべてが満たされていなければ整理解雇が解雇権の濫用と解されるべきでない」という判例が出ています。パートの場合は期間の定めのないパート
( 常用パート ) が対象になります。
整理解雇の4要件 |
内 容 |
整理解雇の必要性 |
会社存続のために複数労働者の解雇がどうしても必要で、それがもっとも有効な手段であること |
整理解雇回避の
努力 |
解雇以外の手段 ( 配置転換、出向、一時帰休、希望退職者の募集、その他余剰労働力を吸収するための努力 ) をすべておこなったこと |
選定基準の
客観的合理性 |
解雇対象の労働者を選ぶ基準が公平で合理的であり、基準を適用することも合理的であること |
説得・協議などの
手続きの妥当性 |
解雇の必要性・規模・方法・解雇基準について労働組合や労働者に説明し、十分な協議をして納得を得る努力をしたこと |
違法となる解雇理由
労働基準法で定められているように、使用者がパート主婦を解雇する場合は一般的に考えて解雇に相当するような理由が必要です。パートは雇用の調節のために利用するものという考えで、簡単に解雇したときはその解雇は無効となります。期間の定めのあるパートを契約期間中に解雇することはやむを得ない場合を除いてできません。
やむを得ない場合とはパートの遅刻、早退、欠勤が多すぎる場合や、仕事をしないこと、仕事をこなす能力や適格性の欠如、規律違反などです。ただ、やむを得ない場合に該当したとしても、使用者がその者に対して注意したり、反省する機会を与えたかどうか、また能力や適格性の向上の機会を作ったかどうかなどあらゆる事情が総合判断されなければなりません。やむをえない場合以外にもパート主婦の国籍、信条 ( 宗教や政治的思想など ) 、社会的身分 ( 生来的な地位 ) を理由として解雇することも禁止されています。
そのほかにも、有給休暇をとったことや労働組合に加入したり、結成しようとしたりすること、ストライキを起こすこと、労働基準法違反を労働基準監督署などに申し出たこと、育児休業・介護休業をとったことを理由に解雇することはできません。また、性別、結婚、妊娠、出産、男女雇用機会均等法の母性健康管理措置
( 時差出勤や勤務時間の短縮など ) を求めたり受けたりしたこと、労働基準法の母性保護措置を求めたり受けたりしたこと、産前産後の休暇を求めたり取ったりしたこと、妊娠・出産によって仕事の能率が低下したり労働できなくなったことを理由として解雇することも禁止されています。
解雇の男女差別禁止
解雇について、男女雇用機会均等法では事業主などによる以下のような行為を禁止しています。
違法
A…解雇に当たって、その対象を男女のいずれかのみとする。
B…解雇の対象を一定の条件に該当する者とする場合において、当該条件を男女で異なるものとする。
C…解雇に当たって、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをする。
D…解雇に当たって、男女のいずれかを優先する。
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A…男女のいずれかのみとしている例
経営の合理化に際して、女性のみを解雇の対象とする。
B…異なるものとしている例
@ 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者のみを解雇の対象とする。
A 一定年齢以上の女性労働者のみを解雇の対象とする。
C…異なる取扱いをしている例
経営合理化に伴う解雇に当たり、人事考課を考慮する場合において、男性労働者については最低の評価がなされている者のみ解雇の対象とするが、女性労働者については特に優秀という評価がなされている者以外は解雇の対象とする。
D…優先している例
解雇の基準を満たす労働者の中で、男性労働者よりも優先して女性労働者を解雇の対象とする。
解雇制限
労働基準法第19条で、労働者が仕事中のケガや仕事が原因の病気によって休業する期間と治った日から30日後まで、産前産後の女性が休業する期間 (
産前6週間、産後8週間 ) とその終了日から30日後までは解雇してはならないと定めています。これに反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。就業規則で定められた懲戒解雇であっても解雇制限期間中は解雇できませんが、労働基準監督署の除外認定を受ければ予告する義務がなくなるので、即時解雇できます。産前の6週間については実際に休業していなければ解雇することができます。また、使用者が労働基準法第81条の打切補償を支払う場合や地震・洪水・暴風雨などの自然現象によって事業の継続が不可能になった場合
( 労働基準監督所長の認定が必要 ) も解雇できます。
解雇予告と解雇予告手当
使用者がパート主婦を解雇しようとするときは遅くとも30日前までにパート主婦にその予告をしなければなりません。30日前までに解雇予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金をパート主婦に支払わなければなりません。支払った場合は即時解雇できます。
( たとえば、10日前に予告して20日分の予告手当を支払うことも可能です。) 労働者がこの件に関して裁判を起こした場合、裁判所は本来支払うべき解雇予告手当の2倍の金額をパート主婦に支払うよう、事業主に命じることができます。有期労働契約のパート主婦に対して、契約期間が満了して労働契約が消滅する場合は退職扱いとなるので、使用者の解雇予告と解雇予告手当の支払義務は生じません。以下の表の者に対しても解雇予告と解雇予告手当の支払義務はありませんが、使用期間が一定期間を超えると予告と予告手当の義務が生じます。
解雇予告と解雇予告手当の
義務がない労働者 |
解雇予告と解雇予告手当の
義務が生じるとき |
@日々雇い入れられる者 |
1ヶ月を超えて引き続き使用されることになったとき |
A2ヶ月以内の期間を定めて使用される者 |
所定の期間を超えて引き続き使用されることになったとき |
B季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者 |
C試用期間中の者 |
14日を超えて引き続き使用されることになったとき |
解雇予告は「労働者に責任があることを原因とする解雇」である場合、使用者はその解雇について労働基準監督署長に除外認定を申請して認められれば、予告手続きをとる必要はありません。労働基準監督署長は本当にパート主婦に原因があるかどうかの調査をして、パート主婦に非があり、解雇されても仕方がないと判断した場合に解雇予告の除外認定を行います。
有期労働契約 (有期雇用契約 )の反復更新と雇止め
たとえば3ヶ月の有期契約を数回にわたって更新を繰り返され ( 反復更新 ) 、次の更新も行われるものと期待していたのに、突然契約を終了する旨を使用者から言い渡されたとします。これを雇止めといいますが、雇入れの日から1年を超えている場合は事実上の解雇とみなされる可能性が高くなります。解雇とみなされた場合は労働基準法の解雇予告制度が適用されるので、使用者はパート主婦を解雇する場合は解雇しようとする遅くとも30日前までに労働者に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。ただし、地震・洪水・暴風雨などやむをえない理由で事業の継続が不可能になった場合や、パート主婦に責任がある場合、あらかじめ更新しない旨を明示していた場合は適用されません。
また、反復更新後の解雇は通常の解雇と同様に扱われるので、雇止めに関する合理的理由が必要となり、雇止めの予告後または雇止めの後にその理由についてパート主婦が証明書を請求したときは、使用者は遅滞なくこの証明書を交付しなければなりません。
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