労働基準法では1日の労働時間の上限は8時間、1週間の労働時間の上限は40時間 ( 一部44時間の例外アリ ) と定められており ( 9条 )、 これを法定労働時間といいます。一般的には1週間の労働時間が35時間未満の労働者をパートタイマーと呼んでいますが、事実上正社員とほとんど変わらない時間働いているパートタイマー ( フルタイムパート、擬似パートという ) も多いようです。
※1週44時間の例外は、商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業を営む正社員とパートを合わせた従業員が10人未満の事業所に適用されます。
残業とは
使用者が業務繁忙期に労働時間の延長を行うケースは少なくありませんが、これがいわゆる残業で、このうち1日8時間 ( 法定労働時間 ) を超える労働を時間外労働といいます。パート主婦をはじめ、パートで働く人たちは本業として家事や学業を持っていることが少なくありません。本業をこなした上で、空いた時間を有効活用しようと働きに出ているわけです。つまり残業といっても、正社員に課すそれとは重要性が異なってくるのです。
ですから、時間外労働を命じる就業規則がある場合は別として、原則的には事業主はパート主婦に残業をさせないようにしなければなりません。パートタイム労働法
( パート労働法 ) を具体化したパート指針でも、パートタイマーに対してできるだけ所定労働時間を超えて労働させないように努力すべきと定められています。しかし、どうしてもその必要があるときは、時間外労働協定
( 36協定、サブロク協定 ) を結ばなければなりません。個々のパート主婦に対しても、労働契約書、雇入通知書 ( 労働条件通知書 ) で明示しておくほうがいいでしょう。
パート主婦に時間外労働をさせた場合は、8時間を超えた部分に対して通常の賃金に上乗せされる割増賃金 ( 残業代 ) が発生します。 ( 変形労働時間制を採用している場合はその日の特定された労働時間を超えた場合に発生します。) 賃金の割増率は以下のとおりです。
労働の種類 |
割増率 |
時給800円の場合の割増後の賃金 |
時間外労働 (法定外残業) |
25%以上 |
時給1000円以上 |
法定休日労働 |
35%以上 |
時給1080円以上 |
深夜労働 |
25%以上 |
時給1000円以上 |
時間外+深夜労働 |
50%以上 |
時給1200円以上 |
法定休日+深夜労働 |
60%以上 |
時給1280円以上 |
法定休日労働とは法定休日 ( 事業主は少なくとも1週間に1日、または4週間に4日の休日を与えなければならない ) に労働することをいいます。→休日 深夜労働とは午後10時から午前5時まで ( 午後11時から午前6時までの例外アリ ) の間に労働することをいいます。休日労働で時間外労働をする場合は、35%以上+25%以上=50%以上と思われがちですが、これは35%以上の割増賃金を支払うことで差し支えないとされています。
基本的には、1日4時間働くパート主婦が5時間働いた場合、事業主は5時間分の賃金を支払わなければならないのは当然ですが、労働時間が8時間以内 (
法定労働時間内 ) なので、割増賃金を支払う必要はありません。ただ、労働が深夜に及ぶ場合は深夜労働の手当 ( 25%以上 ) が必要になります。労働契約書や雇入通知書などに所定労働時間を超えた場合に割増賃金
( 残業代 ) を支払うという定めがある場合は、法定労働時間 ( 8時間 ) 以内であっても支払う義務が生じます。また、不運なことに時間外労働したにもかかわらず、その分の賃金を払ってもらえなかった場合は過去2年分までなら、さかのぼって請求することができます。
かけもちパートの注意点
1日に2つ以上の職場で働くパート主婦の方をかけもちパートといいますが、この場合労働時間は通算されるので、割増賃金が発生する可能性が高くなるため注意が必要です。
たとえば、パート主婦のみどりさんが1日に○○スーパーと△△工場の2ヶ所で働いていたとします。午前9時から午後4時まで○○スーパーで働き(休憩は1時間)、いったん家に帰って子供の帰宅の確認と夕食の準備をし、夫が帰宅してから△△工場へ行って午後6時から9時まで働いていたとすると…
○○スーパーでの労働時間は6時間、△△工場での労働時間は3時間でみどりさんは1日に9時間働いたことになります。法定労働時間の8時間を超えているので、1時間分の割増賃金が発生します。割増後の時給は通常の時給を1.25倍した金額になり、これを△△工場が2時間分の通常の賃金に加えてみどりさんに支払わなくてはなりません。
事業主がパート主婦に1日の労働時間の上限である8時間を超えて労働させるとき、または休日労働をさせるときは、時間外労働協定 ( 休日労働協定 )
を結ばなくてはなりません。時間外労働協定 ( 休日労働協定 ) とは事業主とパート主婦が加入する労働組合 ( 正社員とパートが混合加入する労働組合でもかまいません
) 、またはパート主婦の過半数代表者との間の書面による協定で、これを労働基準監督署へ届け出なければなりません。
協定内容は@時間外労働 ( 休日労働 ) が必要な具体的な理由、A仕事内容、Bパート主婦の人数、C1日や1週間、1ヵ月、1年などの延長時間です。事業主は時間外労働協定を結べばパート主婦を何時間でも労働させることができるわけではなく、下表のように延長時間の上限基準が定められているので注意が必要です。(
下表は一般労働者の場合に適用されます。期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者は別の上限時間が定められています。) さらに、小学校就学の始期に達するまでの子を養育するパート主婦や家族介護をするパート主婦が請求した場合は1ヵ月につき24時間、1年で150時間を超える時間外労働をさせてはならないとされています。また、この協定の有効期間を定める場合は3年を超えてはなりません。
( 労働協約による場合は有効期間を定める必要はありません )
延長する期間 |
延長の上限時間 |
1週間 |
15時間 |
2週間 |
27時間 |
4週間 |
43時間 |
1ヵ月 |
45時間 |
2ヶ月 |
81時間 |
3ヵ月 |
120時間 |
1年間 |
360時間 |
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男女雇用機会均等法では、深夜業で働くパート主婦が安心して働くことのできる環境を整えるために、指針でいろいろな定めをしています。強制力のないものもありますが、これらが実現できれば、有能なパート主婦の皆さんがより積極的に働こうという意思が出てくるでしょう。
@通勤や仕事中の安全確保
事業主は送迎バスの運行や公共交通機関の運行時間に配慮した勤務時間の設定、従業員駐車場の防犯灯の整備、防犯ベルの貸与などを行うことで、深夜業に従事する女性の通勤の安全確保に努めなければなりません。また、事業主は防犯上、深夜業で働く女性が一人で作業をすることを避けるように努めなければなりません。
A子育てや介護の事情への配慮
事業主は女性を新たに深夜業に雇う場合は、子育てや介護、健康に関する事情を聴くなどして配慮するよう努めなければなりません。なお、事業主は子育てや介護をする労働者が請求した場合は、育児・介護休業法の定めるところにより深夜業をさせてはなりません。
B仮眠室・休養室の整備
事業主は夜間に労働者が眠らなければならないときや労働者が就業の途中に仮眠できるときは、労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則の定めるところにより、男性用と女性用を分けて仮眠室を設ける必要があります。なお、事業主は同様に男性用と女性用を分けてトイレや休養室などを設ける必要があります。
C健康診断等
事業主は深夜業を含む仕事に常時従事させようとする労働者を雇い入れるときやこの仕事への配置替えをするときは6月以内ごとに1回、定期的に健康診断を行う必要があります。また、事業主は健康診断の結果、健康診断の項目に異常が見つかった場合には医師の意見を勘案し、必要があるときは労働者の実情を考慮して、昼間の業務への転換や作業の転換、労働時間を短縮するなどの措置を講じなければなりません。なお、事業主は労働基準法の定めるところにより、妊産婦が請求した場合には深夜業をさせてはなりません。
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