「パートと正社員は別。労働基準法は正社員にはあてはまっても、パートは対象外」
このような考えをもっていらっしゃる方はまだまだ多いのが現実です。事業主だけでなく、パート主婦自身がこのような思い違いをしていることは大変悲しいことです。労働法に関する知識は「知ってたら得」なのではなく、「知らなきゃ損」する場合があるのです。パート主婦であるあなたが労働環境をよくするための行動を起こすか起こさないかはご自身の判断に委ねざるを得ませんが、まずは現在の労働環境の善し悪しを判断するための材料を集めることが必要となるでしょう。その材料こそがほかでもない労働法なのです。
さて、本当に「パートと正社員は別」なのでしょうか。労働基準法第9条では「労働者とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定められています。つまり、パート主婦はれっきとした労働者です。労働者である以上、労働法が適用されるのは当然です。労働者であるということは、たとえば労働組合を結成したり、既存の労働組合に加入したりすることは憲法第28条に定められている団結権の行使として認められる行動であることをはじめ、このサイトで紹介している労働契約、労働時間、賃金、割増賃金、休憩時間、休日、年次有給休暇、募集採用、配置・昇進・教育訓練、セクハラ、妊娠・出産、育児、労災保険、雇用保険、退職解雇に関する労働法の規定もすべてパート主婦に直接関係するものばかりなのです。
このように、労働法上の扱いとして「パートと正社員は別」なのではなく、「パートと正社員はほとんど同じ」なのです。 ( なぜ、ほとんどなのかは当サイトの各ページをご覧になっていただければわかります。 ) パート主婦と正社員がほとんどの場面で同じ「労働者」扱いになるということはとても重要なことです。これは単に正社員だけに認められていると考えられていた権利がパート主婦にも適用されることがわかったというだけでなく、パート主婦自身が労働者としての意識をはっきりと持たなくてはならないということにもなるからです。つまり、「正社員は責任が重いけど、パートだったら許されるだろう」という考え方が通用しなくなることが起こりうるということです。たとえ法律で認められている権利であろうとも、それを要求し行使する限りは、それ相当の義務を果たさなければならないこともぜひ頭に入れて置くべきでしょう。
パート主婦に関する法律と条約は以下のとおりです。普段働いているとあまり実感しませんが、じつは女性のパートタイム労働にはこんなにもたくさんの法律と条約が関係しています。
憲法とは
第二次大戦後に制定された日本の最高法規。戦争の放棄(9条)、基本的人権の享有(11条)、法の下の平等(14条)、最低生活の保障(25条)、勤労の権利義務・勤労条件の基準(27条)、勤労者の団結権(28条)などが定められている。
民法とは
明治時代に制定された市民の日常生活関係(財産関係、身分関係)を一般的に規律する法律。 自由主義思想に基づいた市民社会のルールで主に「財産法」と「家族法」に分かれる。
ILOパートタイム労働条約とは
ILOとはInternational Labor Organization ( 国際労働機関 ) の略。パート労働者が労働者として行動するための正社員と同じ権利を保障され、正社員と同じ基本賃金を受け取り、正社員と同等の社会保障制度を享受することができるような措置をとること ( 均等待遇 ) を定めた条約。
フルタイム労働者との雇用上の差別を禁止することや、パートから正社員へ、または正社員からパートへの就業形態の転換が自発的になされることを保障するための措置をとることが定められている。日本はこの条約を批准していない。→ILO労働条約と勧告
※均等待遇=平等で、両者の間に差がない待遇。
パートタイム労働法 ( パート労働法 ) とは
正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」。パートタイマーの適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実などを通してパートタイマーの労働条件の向上を図るための法律。ハートタイマーにフルタイム労働者との均衡待遇を企業の努力義務としているだけで強制力がない法律。パートタイム労働法の運用にあたって具体的な指標を示したものが、パートタイム労働指針である。
※均衡待遇=両者の待遇のバランスが取れている状態。必ずしも同じ待遇ではない。パートタイマーにもいろいろな働き方があって、一律に正社員と同じ待遇にしようとすることが難しいと判断されたために、「均等」でなく「均衡」という言葉が使用された。
労働基準法とは
労働者の人権の尊重を重視し、労働条件の最低基準を定めて労働者が人間らしい職業生活を送れるようにするための法律。
労働組合法とは
労働者と使用者(社長など会社の代表)が対等な立場に立って、労働条件について交渉することで労働者の地位を向上させること、また、労働者が労働組合を組織して団結することを擁護することなどを目的とした法律。
労働者災害補償保険法とは
略称は「労災法」。業務上(仕事中)の理由によるまたは通勤途中の労働者の負傷(ケガ)、疾病(病気)、障害、死亡などに対して保険給付を行い、労働者の社会復帰の促進、労働者と遺族の生活の援護などを行うことを定めた法律。
労働安全衛生法とは
労働事故防止のための基準の確立、責任体制の明確化などを定めることによって、労働者の安全と健康を守り、快適な職場作りにつなげることを目的とした法律。
労働審判法とは
個別の労働関係の民事紛争について裁判所で事件を審理し、調停を成立をさせるなどして迅速で適正な解決を図るための法律。
審判手続きは労働審判官(裁判官1人)と労働審判員(労働関係の専門的知識がある者2人)からなる労働審判委員会で行われ、決議は過半数の意見で決定する。3回以内の期日で決定した審判は裁判上の和解と同等の効力を持つ。
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律とは
個別労働関係紛争について迅速で適正な解決を図るために都道府県労働局長が助言や指導を行ったり、都道府県労働局に紛争調整委員会を設置してあっせんを行うことを定めた法律。
雇用対策法とは
国による労働者の能力開発や能力向上、転職に関する措置が効果的に実施されるよう総合的に講ずることで労働者の職業の安定を図るようにするための法律。
職業安定法とは
労働者の募集、紹介、供給に関する法律。労働者の募集や職業紹介をする際の労働者の均等待遇を保障している。
男女雇用機会均等法とは
正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」。
女性労働者が性別で差別されず、母性を尊重されながら働けるようになることを理念に掲げ、雇用分野の男女の均等な機会・待遇を確保するとともに、女性労働者の妊娠中・出産後の健康を確保することを目的とする法律。
男女共同参画社会基本法とは
男女の人権を尊重し、男女が社会の対等な構成員としてあらゆる分野に参画する機会が確保されること(男女共同参画社会の形成)を目的としている。
家庭生活やその他の活動における性別役割分業が男女共同参画社会の形成を阻害する要因であり、男女の社会活動の選択に対する影響をできるかきり中立なものとするよう配慮すべきだとしている。
母子保健法とは
母性と乳幼児の健康の保持、増進のため保健指導、健康診査、医療などの措置について定めた法律。
育児・介護休業法とは
正式名称は「育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」。
育児休業・介護休業・子供の看護休暇制度を設けて、労働者の勤務時間などに関して事業主(社長など会社の代表)がとるべき措置を定めている。また子供の養育や家族の介護を行う労働者の雇用の継続、再就職の促進を図るための支援措置を定めている。
児童手当法とは
未来の活力ある社会を実現するために、子供たちが心身ともに健康に育つことが必要との考えから、家庭生活の安定を図るため、子育てにかかる費用の一部を児童手当として支給するための法律。
最低賃金法とは
業種や地域に応じて賃金の最低額を保障することで労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定や労働力の質的向上につなげると同時に、経済の発展にもつなげようとする法律。
賃金の支払の確保等に関する法律とは
景気の変動や産業構造の変化などによって会社の経営が不安定になり、労働者が退職をした場合に、未払いの賃金を事業主に代わって政府が保障したり、会社で行っている貯蓄金や退職手当の保全措置などに関する定めをしている法律。
雇用保険法とは
労働者が失業した場合や教育訓練を受けた場合などに保険給付を行うことで労働者の生活と雇用の安定を図るとともに、労働者の雇用の安定、能力の開発、福祉の増進を行うことを目的とした助成を行うことを定めた法律。
健康保険法とは
労働者の業務外(仕事中以外)の理由による疾病(病気)、負傷(ケガ)、死亡、出産と被扶養者(たとえばサラリーマンである夫に養われている妻や子供のこと)の疾病、負傷、死亡、出産に対して保険給付を行うための法律。
厚生年金保険法とは
労働者の老齢、障害、死亡について保険給付を行い、労働者とその遺族の生活の安定を図るための法律。厚生年金基金の給付に関しても定めている。
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